歩古丹硫黄鉱山のこと
増毛町歩古丹(平成28年4月25日再訪)
増毛町歩古丹は既に当ブログで取り上げた。
今回は、歩古丹の謎を解明するための調査である。
それを列挙すると① 歩古丹小学校旧校舎の位置
② レンガ状の構造物 の2点である。
特に② レンガ状の構造物はHEYANEKO氏とA.D.1600氏の調査時に判明したものである。
筆者に問い合わせが来たが初耳であったので、返事が出来なかった。
問い合わせから1年経ち、平成28年4月にA.D.1600氏の案内で現地へ足を運んだ。
案内されたレンガ遺構を写真に取り、後日増毛町役場へ問い合わせの手紙を出したところ、役場のお力添えにより歩古丹出身者から聞き取りを行うことが出来「硫黄鉱山の跡ではないか」という回答をいただいた。
硫黄鉱山の確証をとるため道立図書館で調べた結果、硫黄鉱山施設の一部で間違いないことが判明した。
これより以下、該当する新聞記事を紹介する。
本格的に開発 雄冬・岩老の地下資源
「増毛=硫黄、かつ鉄鑛、鉄平石など幾多の鑛石が数知れず眠る岩老 雄冬一帯の地下資源は、地下資源開発局によって太鼓判を押されたが雄冬で鉄平石、岩老で硫黄の採鑛しているのみなので町でも近く本格的な資源開発に乗り出す事になったが千代田鑛業株式会社=札幌支店札幌市北11条東3丁目=が融雪を待ち硫黄の採鑛に乗り出すことになった。千代田鑛業では昨年8月岩老村歩古丹に硫黄が流出しているのを発見道庁係官に依頼して調査をすすめていたものであったが近く再調査を行って結論を出し融雪と同時に採する鑛事になったもの」(『留萌タイムス』昭和28年2月22日版)
岩老硫黄鑛開発問題 係員が現地を調査 部落民の反対空気も相当薄らぐ
「増毛=地下資源開発で、クローズアップされた岩老硫黄鉱山及び融雪早々採掘される予定になっている歩古丹鑛山(千代田鑛業)に地元漁業者からニシン漁に影響ある…と横槍が入り、漁協組でも、これを重視町に協力を依頼して札幌通産局及び道庁に反対陳情書を提出し、このほど通産省札幌鉱山保安監督部白瀬監督班長、同古川技官、道庁浜島技師、留萌支庁高山技師など現地を視察し実情調査を行うとともに附近海水を分析試験のため海水を持って帰札。その後有害、無害の結論を出すことになった。なお歩古丹の鑛山は4月に千代田鑛業がボーリングを始め埋没量など調査することになっており、もし採掘するにしても数カ月後に始めるというから今年のニシン漁には関係なく、また岩老鑛山も4,5両月は休業することになっているので、直接関係はないが、しかし従来まで操業し鑛泉をダムに溜めて石灰中和を行って海中に流失した鑛泉が海草類に影響を及ぼしたかどうかが問題のかぎを握ることになるので、海水分析試験の結果が注目される。いずれにしても来町監督官は漁業に支障のないよう地元と緊密な連絡をとって問題をおこさぬようにするというから今後は再び漁民が憂慮するような問題にならぬよう措置されるものだと思われる。」(『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
歩古丹は部落民も賛意表す 但し四項目の条件付
「歩古丹一帯の地下資源開発として硫黄の試掘精錬が千代田鑛業株式会社(本社東京)によって行われることになったため同会社では事前に地元部落民の諒解を求めるために相談した結果、部落としては一時は漁族等に影響するという点から反対したが調査の結果、この懸念が薄れたので、国家的重要産業であり、殊に北海道開発のため道民として双手をあげて協力すると大体次の但し書をつけて部落会長代表中村市郎氏外10名から千代田鑛業株式会社宛送付した。
一、飲料水は井戸掘によるポンプ取付をなすこと
二、ズリ捨場の設備に対しては現試掘箇所が沢のがけなるため50米内至70米の止め場を設置すること
三、精錬場の設置に対しては釜による周囲の支障なきよう取扱われること
四、今回設置される釜は亜硫酸ガスの発生僅少なる由障害なきことなるも更に留意されること」(『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
しかし、この年の採掘は保留となった。
歩古丹の硫黄鑛 明後年から採掘か
「増毛=岩老の硫黄鉱山に続いて歩古丹の地下資源開発に着眼した千代田鉱業株式会社(札幌市)では昨年から同地の硫黄埋蔵量を調査中であったが現在の価格では安価のため事業として成立たない段階にあるため一応採掘を中止することになった、しかし埋蔵調査量の結果によれば有望であることが明らかに立証されているので採算の面で見透しがつけば直ちに採掘にかかることになっており一応明年度まで中止して30年から本格的採掘に乗り出す模様」(『留萌タイムス』昭和28年7月6日版)
昭和28・29年に刊行された『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』(札幌通商産業局)の「試掘」項目を見ると「千代田鉱業株式会社」の名前は掲載されているが、昭和30年になると千代田鉱業の名前は消えている。
従って、歩古丹の硫黄採掘は試掘のまま中止された可能性が高い。

今も現存する歩古丹小学校校舎。
校舎は昭和40年5月に新築落成し、移転してきたものである。

行けそうな所から急斜面を下り、歩古丹小学校校舎へ辿り着く。
しかし、目的は違う。

足元が悪いが、この時期は草木も生えていないので楽である。

少し広がった場所に出た。
推測の域だが、移転前の歩古丹小学校跡地と思われる。

集落の風景。
人々が暮らしていた痕跡は朽ちかけた電柱と、瓦礫、そして学校である。

A.D.1600氏の案内で「こっちです」と云われ、云われるまま動く。
平地が広がっているが、かつては家屋が建ち並んでいた。

そして、辿り着いた。
歩古丹鉱山の一部施設である。

ちょっと登って反対側から撮影した。
本格的な採掘に至らなかった理由は不明のままである。

レンガ遺構の背後には止め場の石が残されていた。
今回の調査に当たり、情報を提供していただいたHEYANEKOさま、A.D.1600さま、増毛町役場の職員さまに感謝申し上げます。
歩古丹鉱山は、調査を続行します。
参考文献・引用資料
留萌タイムス1953「本格的に開発 雄冬・岩老の地下資源」『留萌タイムス』昭和28年2月22日版)
留萌タイムス1953「岩老硫黄鑛開発問題 係員が現地を調査 部落民の反対空気も相当薄らぐ」『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
留萌タイムス1953「歩古丹は部落民も賛意表す 但し四項目の条件付」『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
留萌タイムス1953「歩古丹の硫黄鑛 明後年から採掘か」(『留萌タイムス』昭和28年7月6日版)
札幌通商産業局1953『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』札幌商工協会
札幌通商産業局1954『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』札幌商工協会
増毛町歩古丹は既に当ブログで取り上げた。
今回は、歩古丹の謎を解明するための調査である。
それを列挙すると① 歩古丹小学校旧校舎の位置
② レンガ状の構造物 の2点である。
特に② レンガ状の構造物はHEYANEKO氏とA.D.1600氏の調査時に判明したものである。
筆者に問い合わせが来たが初耳であったので、返事が出来なかった。
問い合わせから1年経ち、平成28年4月にA.D.1600氏の案内で現地へ足を運んだ。
案内されたレンガ遺構を写真に取り、後日増毛町役場へ問い合わせの手紙を出したところ、役場のお力添えにより歩古丹出身者から聞き取りを行うことが出来「硫黄鉱山の跡ではないか」という回答をいただいた。
硫黄鉱山の確証をとるため道立図書館で調べた結果、硫黄鉱山施設の一部で間違いないことが判明した。
これより以下、該当する新聞記事を紹介する。
本格的に開発 雄冬・岩老の地下資源
「増毛=硫黄、かつ鉄鑛、鉄平石など幾多の鑛石が数知れず眠る岩老 雄冬一帯の地下資源は、地下資源開発局によって太鼓判を押されたが雄冬で鉄平石、岩老で硫黄の採鑛しているのみなので町でも近く本格的な資源開発に乗り出す事になったが千代田鑛業株式会社=札幌支店札幌市北11条東3丁目=が融雪を待ち硫黄の採鑛に乗り出すことになった。千代田鑛業では昨年8月岩老村歩古丹に硫黄が流出しているのを発見道庁係官に依頼して調査をすすめていたものであったが近く再調査を行って結論を出し融雪と同時に採する鑛事になったもの」(『留萌タイムス』昭和28年2月22日版)
岩老硫黄鑛開発問題 係員が現地を調査 部落民の反対空気も相当薄らぐ
「増毛=地下資源開発で、クローズアップされた岩老硫黄鉱山及び融雪早々採掘される予定になっている歩古丹鑛山(千代田鑛業)に地元漁業者からニシン漁に影響ある…と横槍が入り、漁協組でも、これを重視町に協力を依頼して札幌通産局及び道庁に反対陳情書を提出し、このほど通産省札幌鉱山保安監督部白瀬監督班長、同古川技官、道庁浜島技師、留萌支庁高山技師など現地を視察し実情調査を行うとともに附近海水を分析試験のため海水を持って帰札。その後有害、無害の結論を出すことになった。なお歩古丹の鑛山は4月に千代田鑛業がボーリングを始め埋没量など調査することになっており、もし採掘するにしても数カ月後に始めるというから今年のニシン漁には関係なく、また岩老鑛山も4,5両月は休業することになっているので、直接関係はないが、しかし従来まで操業し鑛泉をダムに溜めて石灰中和を行って海中に流失した鑛泉が海草類に影響を及ぼしたかどうかが問題のかぎを握ることになるので、海水分析試験の結果が注目される。いずれにしても来町監督官は漁業に支障のないよう地元と緊密な連絡をとって問題をおこさぬようにするというから今後は再び漁民が憂慮するような問題にならぬよう措置されるものだと思われる。」(『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
歩古丹は部落民も賛意表す 但し四項目の条件付
「歩古丹一帯の地下資源開発として硫黄の試掘精錬が千代田鑛業株式会社(本社東京)によって行われることになったため同会社では事前に地元部落民の諒解を求めるために相談した結果、部落としては一時は漁族等に影響するという点から反対したが調査の結果、この懸念が薄れたので、国家的重要産業であり、殊に北海道開発のため道民として双手をあげて協力すると大体次の但し書をつけて部落会長代表中村市郎氏外10名から千代田鑛業株式会社宛送付した。
一、飲料水は井戸掘によるポンプ取付をなすこと
二、ズリ捨場の設備に対しては現試掘箇所が沢のがけなるため50米内至70米の止め場を設置すること
三、精錬場の設置に対しては釜による周囲の支障なきよう取扱われること
四、今回設置される釜は亜硫酸ガスの発生僅少なる由障害なきことなるも更に留意されること」(『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
しかし、この年の採掘は保留となった。
歩古丹の硫黄鑛 明後年から採掘か
「増毛=岩老の硫黄鉱山に続いて歩古丹の地下資源開発に着眼した千代田鉱業株式会社(札幌市)では昨年から同地の硫黄埋蔵量を調査中であったが現在の価格では安価のため事業として成立たない段階にあるため一応採掘を中止することになった、しかし埋蔵調査量の結果によれば有望であることが明らかに立証されているので採算の面で見透しがつけば直ちに採掘にかかることになっており一応明年度まで中止して30年から本格的採掘に乗り出す模様」(『留萌タイムス』昭和28年7月6日版)
昭和28・29年に刊行された『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』(札幌通商産業局)の「試掘」項目を見ると「千代田鉱業株式会社」の名前は掲載されているが、昭和30年になると千代田鉱業の名前は消えている。
従って、歩古丹の硫黄採掘は試掘のまま中止された可能性が高い。

今も現存する歩古丹小学校校舎。
校舎は昭和40年5月に新築落成し、移転してきたものである。

行けそうな所から急斜面を下り、歩古丹小学校校舎へ辿り着く。
しかし、目的は違う。

足元が悪いが、この時期は草木も生えていないので楽である。

少し広がった場所に出た。
推測の域だが、移転前の歩古丹小学校跡地と思われる。

集落の風景。
人々が暮らしていた痕跡は朽ちかけた電柱と、瓦礫、そして学校である。

A.D.1600氏の案内で「こっちです」と云われ、云われるまま動く。
平地が広がっているが、かつては家屋が建ち並んでいた。

そして、辿り着いた。
歩古丹鉱山の一部施設である。

ちょっと登って反対側から撮影した。
本格的な採掘に至らなかった理由は不明のままである。

レンガ遺構の背後には止め場の石が残されていた。
今回の調査に当たり、情報を提供していただいたHEYANEKOさま、A.D.1600さま、増毛町役場の職員さまに感謝申し上げます。
歩古丹鉱山は、調査を続行します。
参考文献・引用資料
留萌タイムス1953「本格的に開発 雄冬・岩老の地下資源」『留萌タイムス』昭和28年2月22日版)
留萌タイムス1953「岩老硫黄鑛開発問題 係員が現地を調査 部落民の反対空気も相当薄らぐ」『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
留萌タイムス1953「歩古丹は部落民も賛意表す 但し四項目の条件付」『留萌タイムス』昭和28年3月21日版)
留萌タイムス1953「歩古丹の硫黄鑛 明後年から採掘か」(『留萌タイムス』昭和28年7月6日版)
札幌通商産業局1953『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』札幌商工協会
札幌通商産業局1954『札幌通商産業局(管内)鉱区一覧』札幌商工協会
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